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トピックス
情報通信技術の傾向と医療
No.36 2017年 12月電子通信メーカーの展示会と講演から概要をお伝えします。富士通とNECの展示会/講演会が有楽町の東京国際フォーラムにおいて開催されました。(各社別々、毎年5月と11月)
デジタル産業革命ともいえる情報通信技術(ICT)の発展の中で、各メーカーが安全・安心な社会の実現を目指して切磋琢磨しています。筆者は情報通信の最大の展示会ともいえるCEATEC(幕張、10月)においても展示・講演会をセキュリティ、地域産業振興、および「医療」を念頭に置きながら取材を重ねています。
世界の潮流
最近のICTに絡む用語の一つに全世界的な経済の流れの傾向を「メガトレンド」という言葉で表しています。巨大潮流という言葉が適当でしょう。都市化、気候変動、資源、人口構造、そしてテクノロジーがキーの要素です。
2016年の世界人口が約74憶(国連資料)、人口増加率は減少しつつあるものの、2050年には1.3倍90億人になろうとしていて、その傾向として都市部の膨張が著しく、35億が1.8倍の63億人になると予想されています。
コンピューターの数は過去20年間で57万倍に増えて、データ量は105億倍の44兆GBという量になっていると推定されています。Gartner社の2008年データでは10億台、2014年には20億台、今後は年に12%増加と仮定して6年で2倍という推定をしています。(廃却、買い替えが増える)この増加の原動力は、巨大潮流に乗っての情報技術の無限ともいえる応用の広がりでしょう。
情報通信技術
モノがネットワークにつながって、全体的に把握され、運用効率をあげるということは10年以上の歴史があります。飛行中の旅客機のジェットエンジンの動作状況はリアルタイムでエンジンの製造メーカーに把握されています。世界中に輸出された重機(たとえばトラクター)がどこで、どのような作業状態にあるかということも把握されています。高級自動車の位置情報は盗難防止の手段として活用されています。あなたがどこに居て、どう動いているかということも把握できます。ちなみに、スマホ(スマート・フォン)やタブレットを開くと、自分がどこにいるかということがすぐにわかります。携帯電話の位置もわかります。このような情報を自分については公開しないという設定は可能です。
IoT(internet of Things:モノがインターネットにつながる)は6500倍530億個につながり、世界の全員がつながっていると想定できます。2000年ころに始まったモノと情報システムとのつながりは。2017年にはプラントやビルの業務用機器にとどまらず、家電や個人の携帯機器にまで適用がひろがって、この数値は指数級数的に増えつつあります。新しい価値創造はデジタル産業革命ともいわれていますが、いまやそれさえも不十分な表現と言われ、宇宙レベルから個人の日常生活までカバーして、無限の広がりになっています。
人工知能
AI(Artificial Intelligence:ヒトの知能や作業コンピューターで模倣したり、学習したりして創造的な考えをする)は1997年にはチェスにおいてコンピューターが人間に勝ちました。10の120乗の手を覚えています。 それから16年、2013年には将棋でAIがヒトに勝ちました。10の220乗の手を覚えています。囲碁では140乗もふえて10の360乗の手を学習しました。囲碁や将棋で高度なAI機能を持つコンピューター同士に対戦させると、24時間、365日疲れを知らないコンピューターは無限ともいわれる学習をして、人知をはるかに超える強さになるでしょう。このような傾向をゲームや囲碁、将棋の世界にとどまらずあらゆる分野で応用すると、2045年問題、あるいはシンギュラリティー(Singularity:特異点)と称して、コンピューターがヒトを支配する状態になるのではないかと考えられています。すでに現実的な問題として取り組んでいます。
恐ろしいような感じを持ち、心配する人も居ます。現在のコンピューターなんてゴキブリレベルの低次元なもので、それが、ネズミ、犬・猫なみになって、やがて猿のレベルに達する、そしてヒトのように自我を持つようになるという心配です。
究極的にはヒトを殺してはならない、ストップという命令を聞かなければならないということが必須のことになります。電源を切ってしまえばいいじゃないかと考えますが、AIは電源供給を切られないようにするという基本はとっくに自分で考察して解を持っているでしょうから、上記のストップという命令が必須になるでしょう。
Fujitsu Journal2017年10月号によると、AIコンピューターにより、2035年までに16の業種における経済成長を1.7%向上させる。良い結果を享受するのは、教育、宿泊・飲食サービス、建設業界であろう。生産性の向上40%を期待できる。最も恩恵をうけるのは、情報通信、製造、金融サービスの3分野であると想定しています。
都市のスマート化、ビジネスのスマート化、暮らしのスマート化が現実のものとなります。最近の例では、北米の皆既日食が北米大陸を横断(2017年8月21日)して、太陽光発電が局所的に落ち込んだ時、電力の供給に全く影響が出ないように、スマート電力が機能しました。日本全体の電力ネットワークをスマート化して、広域の障害が起きても迂回して供給して停電がおきないようにするということは考えられています。日本の東西が50Hzと60Hzに分かれているのは致命的なことです。鉄道の軌道が標準(広軌)と狭軌に分かれているのも大きなハンディキャップです。グローバルな発展のために世界標準の設定が必須です。
デジタル革命の一端は町中のモニタービデオカメラ(監視カメラ)に見られます。 日本では500万台(およそ25人に一台)、イギリスでは11人に一台というデータがあります。防災、防犯、施設管理、交通管理など限りない分野での応用が実現しています。AIを用いた個人識別能力は、特定の人相がわかっている(だれであるかはわからなくても)日本中の億人単位の人から見つけることが可能になっています。プライバシー問題がなければ、免許証写真から、あるいはマイナンバーカードの写真を利用して特定人を追跡・発見することが可能です。自動車では盗難と保険の観点からすでに実用化しています。
AIを上手に活用すれば、政治・経済・教育・医療など、あらゆる面での人類貢献が可能です。一方、核兵器や宇宙技術などの分野で悪用しようとすると、強力なツールになり得ます。
自動車の自動運転もAIの活用で、より安全なものへ変化していきますが、それでも、完璧に安全という自動運転はできないと思っています。自動運転機能を装備していない自動車が沢山併存するでしょうし、運転者が故意に危険行為をするかもしれない、想定外の事象がなくならないからです。
医療への応用
医療面では、医師の個人的な経験や知識に依存するだけではなく、医療映像、DNAデータと薬の整合性など膨大な情報を、類似性や絞り込み、既往症データを活用して(個人レベルから地域、全国、世界的な範囲で)、より良い治療へ向けて実用化が進んでいます。IBMのワトソンコンピューターを使って患者さんの症状と検査データから可能性のある病気の可能性の順位付け、最適治療の提案など、人間である医師とは別の視点から医療に役立っています。世界中の医学論文がワトソンに記憶されているとのことです。AIの深層学習機能を深めていくと、世界中の名医を集めたのと同レベルの診断と治療の期待が持てます。単に膨大なデータ(ビッグデータ)を百科事典的に調べるのではなく、データをベースに推論を重ねて(勉強して)自ら賢くなっていくというのがAIの特長です。
一滴の血液や尿から病気を突き止めるというLiquid Biopsyは、がんの早期発見に役立つようになりました。今後の発展が期待されます。
検査画像(CTスキャン、MRIなど)は無数の画像データと実際の病気を関連付け、学習して、見落としをなくして的確な診断を下せるようになりました。
患者さんと医療事務の関係でも、予約、待ち時間管理、医療におけるAIの活用によりサービス向上、会計作業など、限りなく効率的になっていきます。
AR(Augmented Reality 拡張現実)とVR(Virtual Reality)の活用により、難しい手術の架空訓練や、介護と看護における人手の代行、補助が過誤なく安全にできるようになるでしょう。
眼鏡の前面に映像を映し出してその情報を利用するのはほぼ日常的になりました。そのうち、コンタクトレンズに表示部とナノコンピューターを組み込んで、気づかれないように写真をとったり、相手のプロフィールを表示したり、指示命令を受け取ったりすることができるでしょう。ゴマ粒のように小さいコンピューターは視野に入ってきました。脳内埋め込みという考えもあります。脳のペースメーカーができるでしょう。
解決への道のりが難しいのが不老不死の問題です。永遠の課題ですが、AIがSingularityを越えて答を出すでしょうか。AIは倫理思考をするでしょうか。