内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

トピックス

東京スカイツリーの建設

No.28 2012年 2月

東京スカイツリー(電波塔)の5月開業をひかえて大方の関心は地デジの安定受信に向いていると思います。大林組・白石社長の講演を聞く機会がありましたので、建設に関わる興味ある物語をお伝えします。
1958年に竣工した東京タワー(333m)は都心に高層ビルが群立したため、電波が遮られて広域サービスに支障が出てきていました。新しい電波塔は電波伝搬障害を克服し、より安定で広域の電波サービスのために実現しました。事業としては2012年5月に開業します。アナログ放送から地デジへ正式転換は2011年7月に完了していますが、東京タワーからの送信が続いています。東京スカイツリーという名称は公募・投票で選ばれました。

自立式電波塔

自立電波塔としては世界一高く、武蔵の国に建設することから634mの高さに決めました。2012年2月に竣工、5月22日に開業予定ですが、地デジの本放送は試験放送を経て、2013年1月の開始の見込みです。
隅田川の水をモチーフにした粋(いき、水色、タワーの心柱が浮かび出る)と江戸情緒をモチーフにした雅(みやび、江戸紫と金箔のようなきらめき)というLEDライティングを一日おきに実施しますが、1月現在見ることができます。第一展望台は350m、第二展望台は450mに位置します。年間300万人という観客数の予測です。事業主は東武鉄道(株)および東武鉄道スカイツリー(株)です。塔の基部には東京スカイツリー・タウンという商業施設ができる予定です。敷地として押上駅の鉄道貨物ヤードを使ったので、サービス中の東武伊勢崎線と地下鉄2本の運行に影響しないように配慮して工事しました。

構造の特徴

日本は世界有数の地震・台風国であり自立鉄塔には厳しい環境です。設計は日建設計、施工は大林組が担当しました。エッフェル塔や東京タワーは鉄骨造ですが、それ以外の世界の高い電波塔は広州塔(2009年竣工600m)を初め、すべて鉄筋コンクリート造です。鉄筋コンクリートはコスト的に有利ですが、表面劣化(落雷の影響が大きい)や剥落の危険があります。スカイツリーは中心部が鉄筋コンクリート、外側が鉄筋トラスというハイブリッド構造です。基部は一辺が68mの正三角形であり、高くなるにしたがって円形になっています。高さと基部底辺の比は東京タワーが333/95=3.5であり、スカイツリーは634/68=9.3ときわめてスリムであり、土地寸法の制限の中で苦労した点です。

揺れの対策

細くて高いということは自立のための設計を困難にして、振動周期が長く、ゆらゆらとゆっくり振動しやすいということです。横方向の力は基部の一方に引き抜き力を、他方に押し込み力を及ぼします。これに対抗するために、ナックル・ウォール工法(節つき壁杭)を開発しました。土中の杭には外力に抗するでっぱり(節)を設け、杭と杭の間は鋼板熔接でつないで壁構造にしました。これにより踏ん張り力が増しました。鉄筋コンクリートの心柱は五重塔の仕組みを参考にしています。心柱(8mφ)は外側の鉄骨トラス(内径10m)とオイルダンパーでつながっており、制震作用をしています。アンテナ部分はゲイン塔といいますが、一段と細く揺れやすいので、頂上に逆振り子式制振装置を取り付けて制震しています。

デザインコンセプト

事業主の希望「時空を超えたランドスケープ」、「最新でありながら日本の伝統文化を体現し、強く、しなやかに美しく」を追求しました。基部三角形から円形に至るまでの約300mは日本刀や城の石垣を思わせる「反り」があります。三角柱が円形に変化する部分は奈良・平安時代の寺院建築の列柱がもつ中央がゆるやかに膨らんだ「むくり」というデザインです。

建設工事技術

既存のタワー・クレーンでは300mのつり上げが限度でしたので、420mまで吊り上げられるタワー・クレーンを開発し、狭い作業台でも三台のクレーンの尻がぶつからないように小型化し、旋回が交錯しないように三台を統合制御するシステムを開発しました。展望台の屋根(375m)に吊り上げて、リレー方式でさらに上に荷物を運びました。一番の障害が風の影響で、荷物の安定化のために、風の動きをシミュレーションで解析し、ジャイロ効果により荷物の揺れと向きを制御できるようにしました。微妙な角度を制御して、荷物を最適角度と高さで所定の場所にはめ込むことができました。GPSとレーザー計測による位置決めは、タワーから1000m離れた別の建物に置いた基準点とタワー上の基準点と参照点としてミリ単位の制御が可能でした。
鉄の熱膨張も問題になり、重要な補正項目になりました。朝、正中時、夕刻と太陽熱により鉄の伸びが異なり、一日サイクルの精度補正をおこないました。鋼管の主管と枝管は溶接工法でつないだのですが、斜め接合でしたので、三次元モデルによる3D解析が必須でした。

鉄骨部材

直径2.3m、厚さ10㎝の鋼管は一セグメント30トンの重さがあり、これを所定の高さまで吊り上げて接ぐためには位置合わせにミリ単位以下の精度を要します。 ゲイン塔(3000トン)を高所で積み上げるのは極めて危険、困難であるので、心柱の空洞の中で、地上で組立て、だるま落としとは逆の積み上げ工法+吊り上げ工法で組み上げました。アンテナ取り付けも低所で作業しました。心柱の工事と並行してせり上がっていきました。

311地震

東日本大震災の日にはゲイン塔吊り上げの最終段階でした。地震による横振動は記録装置の振幅測定限界2.5m(幅5m)を振り切ってしまったのですが、GPS記録では揺れ幅6mでした。塔体495m地点では1.4m幅でした。心柱が上下に10㎝動きました。まだ制振装置が作動していなかった状態で地震に耐えたことは心強いことでした。負傷者は出ず、クレーンと基本構造体の損傷はありませんでした。災害警報システムは揺れの一分前に発報して、避難することができました。2011年3月18日にゲイン塔を釣り上げて634mに達しました。


あとがき

次第に高くなっていくスカイツリーの成長を頻繁に見られる足利市へ通じる東武伊勢崎線の頻繁な利用者である筆者には工事の進捗は興味深いもので、進み具合をずっと見守ってきました。関東地方の周辺でも低い小さいアンテナで地デジを視聴できるようになるでしょう。このタワーの威力は関東周辺部の山間部にまでは及ばないので、ケーブルテレビのような配信サービスや中継放送局の必要性は残るでしょう。


2010年4月11日


2010年8月21日


2011年3月10日

参考写真は筆者が撮影したもので、隅田川船上から(2010年4月11日)、東京モノレールから(2010年8月21日)、および東日本大震災の前日に東武浅草駅の近くからの光景です。絵葉書的な整ったものではありませんが、筆者の視点が表現できていると思います。

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