内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

トピックス

共通番号制度

No.27 2012年 1月

日本国民および長期滞在外国人にもれなく番号を振り当てて公的サービスおよび国民義務行使の効率を高めるという目的の「共通番号制度」が実現に向かっており、2015年から部分的に実施する予定です。国民総背番号と揶揄的に言っている向きもあり、住民基本台帳ネットワークに参加しないと宣言する自治体があって、厳しい道のりを歩んできました。総務省や自治体の首長の講演と討議の場があったので、概要を紹介します。ここでは用語を共通番号制度と記しますが、現段階では「マイナンバー」という名称が公募により決まっています。

制度実現の機運

全国市長会、共通番号制度検討会より全国809自治体首長を代表して社会保険、税、個人情報保護、安全性確保をしつつ制度実現の意気込みが表明されました。典型的には人口40万人の市では年間292万件の申請があり、5億7千万円かかっており、そのうち転入・転出届だけでも7万件で3億円かかっています。日本全体では諸手続き費用に1,580億円もの費用が掛かっています。制度実施の財源を理由とする自治体間の温度差が大きいですが、期待が大きいというのも事実です。東日本大震災時の役所の住民記録喪失による公的業務の障害、住民の不便という経験を踏まえて制度実現の機運は自治体、中央官庁ともに盛り上がっています。

反対者の意見(住基ネット問題)

自己に関する情報が本人の意思とは無関係に収集、蓄積され、当該個人の全貌を把握されてしまうことにつながる;プライバシーに対する重大な侵害となるという心配が重くのしかかっています。とくに「公権力との関係に着目した場合、民主主義への脅威、監視社会の到来、国民総背番号制の導入になる」(国会図書館、行政法務課資料)ということが公の場にも表れています。

早稲田大学の北川教授(元衆議院議員、国民番号推進協議会代表)は「情報革命、IT革命の中で自公政権時に共通番号制度に反対意見が多かったが、消えた年金、定額給付金などの諸問題が国民番号の必要性を喚起した、と見ています。「国によって与えられた制度というよりも、国民が権利を行使して、サービスを受けるために番号を利用するという考え方が妥当である」と述べて、メリットとデメリットをとらえてプラス志向で制度を確立していくことが重要だとしています。

政府の方針

峰崎内閣官房参与(社会保障改革検討本部事務局長、番号制度推進本部事務局長)は2011年6月に「社会保障・税番号大綱」を決定、番号の名称を「マイナンバー」に決定したと、現政権の動きを説明しました。ここで法案策定作業の方向性が決まって、2011年10月中旬までに全国42都府県で説明会を実施したと説明しました。この制度は、「複数の機関に存在する個人の情報を同一人の情報であるということの確認を行うための基盤であり、社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、公平・公正な社会を実現するための社会基盤(インフラ)である。」と定義しました。基本四情報を、氏名、住所、性別、生年月日として住民基本台帳法を基盤として指定情報処理機関が番号を生成し、市町村長に通知する(所管は総務省)、法人には法人番号を付番する(所管は国税庁)という政府の方針も確立しつつあります。

期待成果

  1. 医療の個人費用の集計(過誤を防ぎ、保険給付漏れや二重給付防止)
  2. 医療、介護および公的サポート、サービスの質の向上
  3. 所得把握の精度向上により、公正、公平な税務を図る
  4. 公費支給の漏れと重複給付を防ぐ
  5. 災害時の個人情報を確保、医療や支援に活用
  6. 公租公課、公的支給金、広報の充実(漏れをなくす)
  7. 公的事務手続きの簡素化、資格確認など経費軽減
  8. 自分の番号に関する情報は本人が確認可能、マイポータルを設置予定

などが考えられています。

安心・安全

  1. 制度上の保護として番号利用の規制、管理、本人性の確保、目的外使用の罰則強化
  2. システム上の安全措置として、分散管理、符号化・暗号化、アクセス制限、公的認証を活用、第三者機関を設置して監査、立ち入り検査、保護方針の実施状況監視、内閣への意見具申を行う

などが配慮されています。

限界と課題

  1. 取引や所得の不正申告、不正受給、事業所得および海外資産など完全掌握が難しいエリアがある
  2. 番号制度を起動させるための制度改革・体制整備と業務改革の費用は1,600億円、医療、教育、運輸など関連法整備を含めると6,000億円程の費用が掛かると見込まれる
  3. 民間利用については利用目的、情報の深さに厳しい規制が必要であるが、私的保険(生命、疾病、損害など)に関する本人確認、収入把握、病歴など便宜性と個人情報利用のバランスなど検討余地が多い

ということが分かっています。被介護者のための代理申請、後見人資格などの問題は視野に入っています。

外国の番号制度

富士通総研の榎並主席研究員によれば、一例としてデンマークでは自分の情報をどれだけ政府が持っているか分かるようになっている。課税通知は一方的に国民に送られるので、確定申告制度はない。不服があれば不服申告は容易である。民間利用は認められていない。国民が個人情報管理により受ける便宜と公的管理のバランスについて国家との信頼が成り立っている一例であると番号制度の成熟国の一例を挙げました。韓国では現金領収証明制度により、税金割引があり経費管理が実現している。自宅で公的書類が入手可能であるなど、身近な便宜が実現しているとのことです。

デメリットやリスク対策

番号制度の講演会の演者全員が番号制度推進者であり、講演も議論も推進一色であり、デメリットの議論やリスク対策については手薄でした。サイバー攻撃と利用資格者の誤用、窃用、漏えい、覗き見、なりすまし、については論じられなかったのが残念で、利便性の裏に必ず存在する犯罪対策が未整備のようです。民間利用(私企業の顧客サービス、管理)の道のりは長そうです。小さく生んで大きく育てるモデルとなるでしょう。米国のように課税と社会保障に限定して、あるいはドイツのように納税だけに利用するというスタートも可能でしょう。政府への信頼が増せば、北欧型の全面利用へと育っていくでしょう。
リスクについて想定外の事態を極小にするように対策を練りたいものです。

政治家や経済界のトップなどの高所得者の人々が自分のお金の動きや収入を把握されることを恐れており、長い間このような制度の実現を阻んでいました。千万、億円単位のお金を動かしながら、知らない、記憶にない、秘書や部下がやったことと言い逃れることはできなくなるでしょう。

→ バックナンバー