トピックス
人体通信
No.24 2011年 9月2011年5月にトピックスNo.23で医療とICT(情報通信技術)についての動向を書きました。人体から取り出せる電気的な情報(生体情報)は心電図や脳波を初め数多くあります。身体に電極を貼り付けて信号を取り出す方法は確実ですが、短時間ならいざ知らず、長時間、一日中となると不便を感じることがあります。
体の回りには独特の電気的雰囲気(電界と呼びます)がかもし出されていて、適当な機器を近づけると体の中の様子を知ることができます。しかも、この電界は体の近傍にとどまっていて放射されないので、1メートル離れれば検出できない、すなわち個人情報としての秘匿性に優れています。
人体通信により生体情報を検出して(視覚や聴覚に発生した信号なども)近距離無線を組み合わせていつでも、どこでも医療情報を利用するという発展形態が開発・実用化の途上にあります。人体通信は1996年に米国で論文が発表され、(注1) 産業界が注目するようになりました。広く医療・健康管理分野への応用が研究・実用化されています。医療器具につながれているという感覚を持たせることなく継続的に、どこにいてもデータを送ることができたらQOLが著しく増すでしょう。
人体埋め込み機器(典型的にはペースメーカー)や人体貼り付け電極利用、および人体通信を複合的に組み合わせて、あるいは適材適所に使うことによって生体情報を検出、伝送して医師と看護師が共有して利用できれば介護・医療面での効果は大きいでしょう。
パソコンではローカル・エリア・ネットワーク(LAN)を家の中や病院に構築して、情報を送受して、施設内の複数のパソコンで共有したり、蓄積することが可能です。生体情報を集めて伝送して蓄積するボディ・エリア・ネットワークという人体通信を拡大した応用が普遍的になりつつあります。
病室で寝ているヒトの生体情報を看護師の部屋に集めて、診察室でもその情報を医師が共有するということは現在でも実用化されています。現在では身体に電極を貼り付ける方法が確実な手段として主流です。LANを利用して生体信号を集めて配信するという方法です。配線を使う代わりに無線を利用して送る方法が便利ですが、この無線システムや医療機器への干渉を防ぐために、これら医療無線設備の近くで携帯電話を利用することを控える必要があります。
- 人体近傍の電界を分析すると、心臓の筋肉の運動から発せられる電気信号(心電図)を初めとして各種の生体情報信号を、それらの信号の規則性をデジタル処理により取り出すことにより、人体通信の受信機で生体情報を検知することができます。
- 人体と人体をつなぐ、例えば手をつなぐことによって人体内の電気情報は隣人に伝達することができます。端の人にイヤフォンで音楽を聞いてもらい、12人の人が手をつないで、他端の人に音質を損なわずに音楽が伝わった実験が、東京電機大学 根日屋講師のTV番組(注2)の中で紹介されました。
- アクティブICカードをポケットに入れておくと、カードを取り出さなくてもIDと暗証番号がマッチするロッカーや金庫を、ハンドルに触るだけで開けることができます。自動車のキーとしても使用できます。低速のデータ伝送から100Mbps程度の高速システムの検討や試作が行われています。
- 筋肉の動きは人体まわりの電界を変化させるので、デジタル・プロセッシングにより心電図を非接触で取り出すことができます。診断用の椅子に検出器を取り付けて、腕を置くことにより確実に信号を取り出せます。黙って座ればぴたりと当たる!ペースメーカーの保守に最適でしょう。
- 看護師が患者さんの手を握ると諸データが一瞬のうちに看護師の携帯端末に蓄積されます。やさしい、温かい医療の一端となりましょう。
- 視覚が不自由の人と健常者が手をつないで歩くと段差、信号などの視覚情報を伝えることができます。脳波信号の伝送は将来の期待応用です。頭に電極をつけて、脳の活性状況を検出すること、即ち、念じることによりロボットを意のままに動かす実験が行われました。
- 在宅医療に光明: 生活のパターン、例えば食事、飲酒、睡眠、入浴、用便などのパターンを検出して記録できます。
- 従業員の入室・退室、さらには健康管理に応用できます。
以上、身近な応用を示しました。医療と情報通信技術の要素の進歩は著しいのですが、総合的にまとめて全国的に、あるいは世界的に利用する標準化とシステム機器の開発・生産についてはまだまだ進行中で、学会と業界の協調が続いています。
(注1)の Thomas G. Zimmerman (IBM):
人体通信に関する論文(T. G. Zimmerman, IBM SYSTEMS JOURNAL, VOL 35, NOS 3&4, p.609~p.617, 1996)
(注2)NHK サイエンスZERO