トピックス
禁煙外来
No.13 2006年 10月2006年4月より禁煙治療が保険適用となりました。すなわち、ニコチン依存が病気と定義されたわけです。問診と診察により喫煙状況を把握して、ニコチン依存度のテストを行い、身体症状を確認します。その結果、ニコチン依存症と診断され、ご本人が禁煙治療プログラムに参加を希望するという二つを条件として禁煙治療プログラムを実施し、これが保険適用となります。およそ3ヶ月程度のプログラムです。
当院では禁煙を希望する方の禁煙を完遂するために皆さまと協力していく体制を整えていく予定です。
たばこ
コロンブスの西インド諸島発見(1492年)にまで遡ると「たばこ」が近代史に現れます。コロンブス一行は先住民からたばこの葉を贈られたという記録があるそうです。以来、嗜好品としての流行と支配者からの重課税あるいは麻薬のような非常に顕著な習慣性を理由に犯罪としての刑罰が科されるなど、大きく揺れながら是認と禁止の繰り返しとなりました。15世紀にヨーロッパにもたらされた「たばこ」は約一世紀かかって世界中にひろまりました。
効能と害
当初は嗜好品として、しゃれた習慣とみなされて、喫煙による社交の場の雰囲気の盛り立て、気分がすっきりするなど薬効的な面も認められましたが、非常に強い習慣性があり、聖職者の喫煙が問題視されるなど喫煙の是非が論争や政治の混乱の原因になりました。
長い間喫煙と健康について論じられてきましたが、医学的な研究が進むにつれて習慣的な喫煙がもたらす健康への障害が明らかになってきました。好ましい社会的あるいは気分的な効能よりも、習慣的な喫煙による健康障害が個人的な問題を越えて国家的損失、さらには人類社会への弊害としてみなされるようになりました。さらには喫煙者のみならずそばにいて煙(副流煙)を吸う家族や友人、同僚にも危害を及ぼすことが明らかになりました。
筆者は、外国に生活して、「たばこをすってもいいですか」と周囲に許可をもとめるような習慣の中に居ましたが、「すってもかまわないが、煙を出さないでね」と冗談を言っていました。また、禁煙が話題になったとき、「禁煙ほど容易なことはない、毎日でも毎週でも決意新たに実行できますからね」と、永続的な断煙の難しさを話したものです。
米国では一時、肥満が社会悪とみなされ、自分自身の体重コントロールができない人は意思が弱く、社会的責任を任せるわけにはいかないと思われました。現実、新聞・雑誌に登場する経営者はスマートな体型の人が多いです。しかし、代謝機能の異常により、標準的な栄養摂取をしても肥満が避けられない人がいることがわかり、治療の対象とみなされるようになりました。日本ではやや太り気味のほうが恰幅が良いとみなされ、やや肥満的な体型が好まれた時代がありました。
肥満と同様に喫煙についても、喫煙者を弱者として社会的な地位を認めないという風潮から禁煙の困難な人を社会的差別から救済し、医療的に支援して禁煙を実現することが人類全体の福祉につながるという認識が支配的になりました。
喫煙がやめられない状態(ニコチン依存症)を生活習慣病とみなして、禁煙を本人と医療機関の協力のもとに実現しよう全人類的事業ということです。
禁煙および節煙の社会的な施策として、たばこに重税を課して消費しにくくする(購買意欲を抑制する)、値上げによる販売量の減少を税収増加で補う、という試みの提案などが論議されましたが、1985年まで続いたたばこの専売事業の専売収益減少を恐れて、日本では実現しませんでした。世界的にはたばこの価格は上がっています。日本では2006年7月1日から一本あたり約1円増税値上げされました。一箱500円以上になったら禁煙を考えるという喫煙者が多いことがわかりました。日本たばこ産業株式会社は禁煙治療を保険対象とすることに対して「遺憾の意」を発表しています。
一方、たばこを未成年に売らないようにする仕組みについても検討されていますが、日本では自動販売機の存在など、世界的に立ち遅れています。米国では酒やたばこの自動販売機は存在しません。売店では年齢を示す身分証明書の提示を求められることがあります。酒類の販売についても厳しく売り手の責任も問われます。アルコール依存も病気として治療の対象になっています。酔っていたので、という言い訳は通用しない世の中になりました。特に自動車運転という「業務」はアルコールの影響のもとでは厳しい制裁の対象になっています。
治療
2006年6月よりニコチンパッチが保険対象になりました。ニコチン摂取量を測定しながらおよそ12週間かけて治療します。医師とのカウンセリングを並行して行って心理面からも治療効果を期待します。ニコチンパッチはニコチンだけを体に与えて禁断症状を抑えつつ、喫煙習慣や心理的依存から抜け出し、少しずつ量を減らしてニコチンの無い状態に慣らす治療法です。ニコチンは脳にあるニコチンの受け皿に結びついて快感物質の分泌を促します。
この特性に着目してニコチンの感受性を妨げて快感物質の分泌を防ぐ内服薬の開発が進んでいます。米国では販売が始まっています(例:バレニクリン)が、日本では厚生労働省に承認申請が出されて審査中です。ニコチンパッチよりも効果がありそうだと期待されています。
参考までに最近のWEBから二点引用します。
夕刊フジ2006年8月のブログ
やめられない人には保険適用の禁煙パッチ
肺がんの原因に喫煙があることは周知の事実。肺がんで死亡する男性の7割が能動喫煙(自身の喫煙)によるものとみられ、反対に喫煙しない女性で肺がんで死亡するケースの3割が「夫の喫煙」による副流煙が原因とする報告もある。
喫煙とがんとの関係を示すのが「ブリンクスマン指数(喫煙指数)」。1日の喫煙本数に喫煙年数をかけた数値がその指数で、400を超えると「要注意」、600を超えると「非常に危険」とされる。
今年6月から医療機関で処方される禁煙パッチが健康保険適用になるなど、行政側の禁煙強化も進んでいる。愛煙家から愛妻家へ、追い風が吹き始めた。朝日新聞2006年07月13日WEBニュース
この毒、細胞内ではダイオキシン並み 山梨大研究
たばこを吸うと、猛毒ダイオキシンが大量に体内に入った時と同じ反応が細胞内で起こる――。こんな報告を、山梨大医学工学総合研究部の北村正敬教授(分子情報伝達学)らが、米学術誌「キャンサー・リサーチ」15日号に発表する。
ダイオキシンはヒトの体内に入ると、細胞にある受容体(カギ穴)にカギが入るように結びついて細胞を活性化させ、毒性を発揮する。国は健康に影響しない1日の摂取量を、体重1キロ当たり4ピコグラム(ピコは1兆分の1)と示している。
北村さんらは、たばこの煙とこのダイオキシンの受容体とのかかわりに着目。市販されているたばこ1本分の煙を溶かした液体を使い、マウスの細胞の反応を調べた。国の基準の164~656倍のダイオキシンが受容体に結びついた状態にあたる活性がみられ、タール量が多いと活性も高くなる傾向が出た。
さらに、受容体に結合すると血中に特殊な酵素が出るように遺伝子を操作したマウスに、たばこの煙を吸わせると、24時間後に酵素の量が約5倍に増えた。
北村さんは「たばことかかわっていると見られる発がんや妊娠異常などはダイオキシンの健康被害と似ており、同じメカニズムが関与している可能性がある」と話す。