内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

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医療と通信 - 切らずに身体の中を診る -

No.12 2006年 5月

放射線医学総合研究所医学物理部名誉研究員である飯沼博士の講演内容をベースに医用画像診断の最前線と応用について動向を説明します。

光ネットワークが全米に整備されつつあった1992年に発足したクリントン・ゴア政権はNII(National Information Infrastructure)構想を発表して国家技術政策に注力しました。ゴア氏は副大統領として通信と情報処理の結合を推進して、いわゆる情報ハイウェイの基本推進力となりました。

米ノースカロライナ州政府はNCIH(North Carolina Information Highway)という「ネットワークと情報処理技術」を利用して行政・教育・医療を高度化するプロジェクトを推進しました。NC州立大学では悪性腫瘍の放射線治療に三次元画像診断治療を活用し、医療画像情報を遠隔地の診療所と共用して「医療と情報通信との結合」を実践しました。
日本でも同様にIT国家を目指してe-Japan戦略を推進してきました。現在は「世界最先端のIT国家」の実現に向けて全国ブロードバンド構想を進めています。

医療分野はその恩恵を受けることのできる可能性が大きいのです。
身体の中を「見る」いう医療の要求は1895年レントゲン線(X線)の発見に始まり、現在では内視鏡や超音波画像はもとより、X線コンピュータ断層撮影(CT: Computer Tomography)や磁気共鳴画像法(MRI: Magnetic Resonance Imaging)、放射性同位元素の腫瘍組織への親和性を利用して画像診断するシンチグラムなど、身体の中を「診る」という高度な医療技術を利用できるようになっています。この医学分野に放射線・核物理、化学、情報工学が大きく寄与しています。

高速伝送と高度情報処理を利用して遠隔地との三次元画像のリアルタイム利用が可能になっています。多層の断層映像をコンピュータ処理(ボリュームレンダリング法)して三次元、カラー表示が可能です。脳血管や冠動脈の三次元画像がカラーで表示され、医師のコンピュータ操作で、視点を360度まわすこともできます。この技術によって腫瘍や動脈瘤の発見と三次元的位置標定が精密にできるようになり、治療に役立っています。

CT

X線源を円周方向から回転照射して1ミリ程度の細かさで身体の輪切り像を撮影し(断層撮影)、三次元画像をつくります。血管内にヨウ素を注入すれば血管像が得られます。被曝リスクと医療効果の釣り合いの上に成り立つ技術ですが、圧倒的に効用が大きいと認められています。

MRI

人体内の水素原子核(バラバラな方角を向いている)に強力な磁場を与えて一定方向に向けて電波パルスを当てるとパルスの立ち下がり時に水素原子核の向きの戻りの緩急が臓器の細胞状態(例えば悪性腫瘍の状態)により異なるので疾患を見付けることができます。超伝導技術や高感度電波受信技術も利用されます。X線被曝の心配がないのが特徴です。

ラジオアイソトープ画像

核医学として定着して安全性も確かめられています。放射性同位元素を含む薬剤を静脈注射して、臓器や骨に到達した頃を見計らってガンマカメラ(ガンマ線をとらえるカメラ)で測定して薬剤が沈着している場所を映像化します。陽電子断層画像(PET:Positron Emission Tomography)は正の電子を放射する放射性同位元素を利用したブドウ糖類似物質を人体に注入してブドウ糖を多く消費する部位(悪性腫瘍)に蓄積する状態を測定します。

がん治療の一端を担う重粒子線がん治療(炭素イオン線)は千葉県稲毛市にある放射線医学総合研究所と兵庫県立粒子線治療センターおよびドイツ(ダルムシュタット)になど世界に三カ所しかありません。群馬大学に新設が計画されていることが2006年5月に報道されました。

三次元化などの画像工学については画像工学・エックス線撮影技術学が参考になります。ウィキペディアで「 MRI 」をご覧になってもいいでしょう。

手術して観察しなければわからなかったような血管や臓器の状態を切らずに診られることは患者さんにとって侵襲を最少にしながら治療効果を最大にする治療を享受できるということです。筆者はMedical Divideと言う表現を創りました。インフォームド・コンセントが周知されつつありますが、先端的治療法を知らないことが生死を分けるかも知れません。また、お住まいの場所によっては治療を受けにくいという地域格差が現存します。飯沼先生は、積極的に医師と相談して放射線医学総合研究所の重粒子線治療を紹介してもらってくださいとのことでした。

重粒子線照射治療を受けた二人の患者さんにインタビューしたところ、300万円程度の出費だったそうです。混合医療、保険適用の過渡期のことでしたから、大きな個人負担でしたが、設備の増強や高度先進医療保険の適用により、待機日数と費用の削減は期待できます。一式300億円と広大な土地という制約から全国的普及には相当な年月がかかりそうですが、技術改良により費用の半減が期待できます。

放射線医師の絶対数が不足しており、施設の普及と同時に専門医の育成が必要とされています。この面では日本は世界に立ち遅れているようです。

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