内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

トピックス

共通番号制度アップデート

No.32 2013年 6月

2012年1月のトピックスNo.27で共通番号制度(マイナンバー)について2015年の導入に向かっての日本政府の動きを説明しました。2012年2月に国会に法案が提出されましたが、11月の衆議院解散により廃案となってしまいました。本来は「社会保障・税番号大綱」を目的・理念として実現に向けて進むべきところ、政局の混乱により頓挫してしまいました。安倍政権のもと5月9日に法案は衆議院を通過して、5月10日に参議院にて審議入りして5月24日に「共通番号制度法」として成立しました。

番号制度の目的

マイナンバー制度といわれた野田政権のときの制度の目的と現在の番号制度の目的の根本は同じです。社会保障・税番号制度と政府が呼称しているように、「社会保障と徴税」が制度の柱です。東日本大震災における個人情報の喪失の経験から防災の一環として個人情報の登録の必要性が加味されました。 日本に在住する個人全員と法人に固有の番号を2015年10月から政府が郵送します。番号交付の実務は自治体が行います。

「個人情報及び法人番号の利用に関する施策の推進は、個人情報の保護に十分に配慮しつつ、社会保障、税、災害対策に関する分野における利用の促進を図るとともに、他の行政分野及び行政分野以外の国民の利便性の向上に資する分野における利用の可能性を考慮して行う。」という役所らしい文言を使っていますが、国民から見て良い点としては社会保障を受けるべき個人の「漏れ」や不正受給をなくすという公正さを実現しようということです。「税」については「徴税」の立場から見るか、「納税」という立場で見るかによって番号制度の賛否が異なります。

番号制度に関係する歴史

  • 1980年にグリーンカード制度を導入、「マル優」制度(少額利子貯蓄非課税制度)の公正な運用を図りましたが、別の視点からは預貯金と利子・配当の把握を目的とするともいえました。1985年に制度廃止になりました。
  • 1997年に基礎年金番号を導入しました。2007年に「消えた年金」問題が発覚、番号制度の欠陥(異動の管理がずさん、カナ表記による氏名誤記など)がありましたが、欠陥を是正しつつ定着しています。
  • 2002年に「住民基本台帳ネットワーク」が稼働しました。民間利用は禁止です。個人情報を「官」が管理するのは違憲という主張がありましたが、裁判では「合憲」とされています。これが共通番号制度を進める力になりました。
  • 2007年に、年金、健保、介護保険を一体化する「社会保障カード」が検討されましたが、2009年に「事業仕分け」で見送りになってしまいました。しかし番号制度実現に向けての検討は続いてきました。国民の便宜や行政の効率化を図る重要な施策が政局中心に振り回され、セキュリティの確保や国民の理解を得ないままずるずると実施が延びたのは残念なことです。

番号法案の概要

番号法案は四つの関係法案で構成されています。

  1. 番号法:行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案で、利用範囲は、社会保障・税・防災の分野です。
  2. 番号法整備法:行政手続における関係法を整備します。地方自治法、所得税法、地方税法、国家公務員法などを改正します。
  3. 地方公共団体情報システム機構法案(機構法):地方共同法人を新設し、住民基本台帳法、公的個人認証法、番号法に基づく事務等を行います。
  4. 政府CIO法:政府全体のIT政策を統括するCIO(Chief Information Officer)を設置して、情報提供ネットワークシステム等を整備します。

番号法を実施するために影響を受ける法律が多いので、細部の法整備に時間がかかり、個人が番号を手にするのは遅れるかもしれません。

番号制度の仕組み

  1. 番号は住民票コードを基に生成されて、交付されます。
  2. 番号は大きく三つのひも付きになります。第一に日本年金機構、第二に国税庁、第三に地方自治体です。それぞれが特有の個人情報を保有します。
  3. 顔写真付ICカードを希望者に交付します。(2016年1月以降) 個人認証サービスに使います。医療機関などの民間事業者への拡大を考えています。カードは住民基本台帳の基本情報である、氏名、性別、生年月日、住所の四つの基本情報に限られます。
  4. 個人情報を利用可能な事務を法により、次のように定めます。
    • 個人番号の提供を求めてよい、利用してよい事務: 93事務・・・年金事務など
    • 個人情報を提供してよい、利用してよい事務: 115事務・・・医療保険など
  5. 情報提供ネットワークシステムの構築は内閣官房が一括して開発・提供します。
    行政機関等が実行しようとする事務が法に規定してあるかどうかチェックします。
  6. マイポータルを構築して国民が自己の情報を監視できます。行政からのお知らせを受け取ることやワンストップ電子申請ができるようにします。
  7. 特定個人情報保護委員会(三条委員会:独立、中立委員会)を設けて個人情報の扱いの監視、苦情の申し出での斡旋をします。

課題

  1. 多くの番号制度実施および管理運営業務を自治体が担務することになるのですが、自治体の人員と予算のめどがついていません。莫大な費用がかかります。
  2. すでにe-Taxを始め多くの公的手続きが実施されていますが、その費用効果は完全に赤字です。(国民が得られる便宜よりも維持管理に費用がかかり、使いにくく、利用者が少ない、マイクロソフトなどのOSやブラウザの変更の影響を受けるなどの問題をかかえています)
  3. セキュリティが完璧とは言えず、保証されていないので、システムに対する外部からの攻撃、個人情報の盗み取り、なりすまし、公務員の誤用、窃用、私企業の不正利用などが起き得ます。
  4. 税金では、「クロヨン」といわれる所得の捕捉率の実態が改善される仕組みができていません。これがしっかりできると、「徴税」の観点からは良くても、個人の懐の中まで「見られる」ことになります。
  5. 民間の利用を許すと、財産状況、健康状況を私企業が把握することによる差別・選別が企業の都合のよいようになされるでしょう。
  6. 既存の行政業務に番号制度を合わせるというよりも、これを機会に業務自体の効率化、行政サービスの拡充などの改革がなされるべきです。

医療と共通番号制

現在でも医療を受ければ、病院にとっては、国民健康保険加入者については国保へ医療報酬の請求、その他の保険加入者については健康保険組合に医療費の請求がなされます。電子カルテには実施した検査と治療および処方した薬剤の記録が電子的に記録されます。きわめて個人的な情報ですが、すでに電子記録は実施中で、共通番号制にリンクしていないだけです。

これが共通番号制で管理されると、地域医療に反映されて医療施設の間の連携に役立ち、個人の医療情報の伝達、処方薬の情報共有、重複検査を避けるなどの節約などに役立ちます。しかし今までの限られた分野での情報利用が国家管理の傘の下にはいると、個人が望まない情報が国家に集約され、望まない利用がなされるかもしれません。

期待

  1. 共通番号制の第一層は、4つの基本情報(氏名、生年月日、性別、住所)に限られるべきでしょう。これらで本人性の確認は十分です。
  2. 仕組みの項の第2項で説明しましたが、基本情報から出発して「年金」、「国税」、「地方自治体」の三本の紐を手繰ってより深い個人情報を引き出して「官」が使います。病気に関する個人情報は紐の先の、深い、安全な場所に格納するべきです。
  3. 私企業の使用は第一層の基本情報に限られるべきです。すなわちあなたの本人性を確認するだけです。「官」がより深い層の個人情報を利用するには仕組みの項の第4項に示したように、国が定めた特定の事務にしか使えないものとします。個人情報にアクセスする係り員、吏員は本人の素性と適正業務目的での使用であることの証明、および使用日時と使用目的を「履歴」として指紋、足跡を残しておかなくてはなりません。時間外使用と登録していない端末からの利用は禁止するべきです。

利用可能な便宜と犯罪は常に表裏の関係にあります。提供された便宜を正当に使うのは当然ですが、「想定外」の不都合が起き得ます。共通番号制度の実施の進捗を注意深く見ていきましょう。


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