内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

トピックス

ヘルスケアネットワーク

No.16 2008年 7月

近年医療技術の進歩が目覚しく、病気の遺伝子的解明、重粒子線(群馬県でも2009年度から)などの放射線技術、脳や心臓など高度な手術が身近になりました。一方、生活習慣に起因する疾患が注目され、日常生活での自己健康管理の必要性が強く認識されています。いわゆるホームヘルスケアが普及しつつあります。

ネットワークが発達した現在、健康管理情報を水平的に広げて医療と介護の社会的な広がりと連携を強めようという動きが活発になってきました。一例を挙げますと、ヘルスケアネットワークContinua Health Alliance(非営利団体)は2006年6月に北米で発足、テクノロジー産業の有力企業がより良いホームヘルスケアを実現するために集まりました。以来「慢性疾患管理」や「高齢者みまもり」、「健康管理とフィットネス」の3分野に焦点をあわせた取り組みを通して2007年末で加盟企業は133を数えます。日本地域委員会が発足して一年余り経過し、近況報告説明会がありました。

  • 世界的に見ると、体重過剰は10億人、慢性病患者は8.6億人おり、医療費の75~80%を慢性病患者が占める。医療費の膨張、生活習慣病、高齢化のなかで20万の病院と1800万床の病床が必要とされている。
  • 人や組織が心身の健康をより効果的に管理できるように相互運用可能なホームヘルスケアシステムを実現しなければならない。そのためには業界団体での共同作業が欠かせない。コンティニュアは、この一年間パーソナル・テレへルス・ソリューション(個人と団体間の、通信を介在させた健康に関するサービス)の環境整備実現に向けで努力していた。その成果のひとつは、相互運用性である。必要に応じて、患者が適切な医療機器を利用できるようにするとともに、健康情報への迅速なアクセスを提供する。家電メーカと健康機器メーカは慢性病患者の家庭における自己管理の援助だけではなく、健康不安を持つ健常者のために体重、血圧、血糖値、コルステロール、パルスオキシメーター(経皮的動脈血酸 飽和度)データなどのバイタルサインを収集してホームドクターまたは病院へ伝送することを可能にする。
  • 膨張する医療費と大病院集中化を防ぐために政府はホームドクター(かかりつけ医)と地域病院または大学病院、専門病院の連携を図っている。すでに電子カルテや高精細医療画像の保存などは電子保存が認められているが、標準化、守秘性、認証、相互運用など数多くのバリアが存在している。コンティニュアはこのバリアを家庭側から乗り越えられるように家電と医療器、IT産業を結合させている。他方、政府規制も多く、医療関連ITサービスの報酬の策定に至っていない。日本地域委員会は、日本におけるプロモーション活動や新たな企業の加盟を募るとともに、政府や学会関係者を通じて家庭で利用する医療機器への無線技術の有効活用を促進する。例えば、日本で認められていない医療機器に対する無線を使った双方向通信などを可能にするなどの活動を行う予定という。

以上のように家電メーカや医療機関が協力してホームヘルスケアへ向かって着実な進歩が見られます。しかし健康管理に関する関連費用を健康保険によるカバーすること、高齢者医療と高齢者の情報通信機器操作を容易にするユニバーサル・サービスの普及など社会・法制の面での改善の方が問題含みでしょう。

トイレに腰掛ければ血圧、脈拍、尿データなどのバイタルサインが収集されてデータ管理できると発案されたのは20年も前のことです。当時はインターネットの普及率は低く、通信と結合した健康管理サービスが一般家庭に普及するには環境が熟していませんでした。トイレット・メーカ、ヘルス機器メーカ、および家電メーカはバラバラに健康管理に取り組んできました。現在では個々の技術は成熟しました。ホームドクターにデータを送って分析してもらうことは技術的には可能になりましたが、標準化、健康保険制度やプライバシー保護など異なった分野の障害が立ちふさがっています。総合的な健康維持管理、究極的には健康長寿と医療費削減を目指して各界の協力が進んでいます。

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