内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

トピックス

病院内での携帯電話使用緩和の動き

No.6 2004年 9月

トピックスNo.3で携帯電話が病院内で使えない理由を解説し、近い将来使えるようになるであろうと、期待を込めて書きました。6月27日付け日本経済新聞朝刊、「医療」のコラムで、解禁の動きがあることを大きく報じています。
解禁の方向を分析しますと次の三つの理由があると考えられます。

  1. 携帯電話方式がFMからデジタルへ、デジタルの中でもより新しい方式に移行しつつあり、小さな電波電力で通信できるようになりつつある。(FOMAやcdma2000)
  2. ペースメーカーを初め、医療機器の電磁環境両立性の認識が高まってきて、そのような機器の開発が進んだ。
  3. 一番心配されたペースメーカーでの事故が発生せず、厚生労働省でも医療機器の携帯電話の影響による誤動作の影響の報告を受けていない。

という状況で、院内での全面禁止を一部解禁しても良いのではないかという気運になりました。問題は古いペースメーカーを装着している人の心理問題やマナー全般に移ってきました。

【経緯】

電波の効率的利用を目指して通信・放送事業者、メーカーなどが社団法人電波産業会(ARIB)を設立して、電波システムの研究開発や技術基準の統一などを推進するとともに、国際化の進展や通信と放送の融合化、電波を用いたビジネスの振興などに協力しあってきました。しかし医療器に携帯電話機の使用が影響を与えた事例(1995年岡山県)を契機にその安全性についてARIBを中心に業界(医療機器、携帯電話機メーカーを初めとする電子機器メーカー、医療機関、総務省)内で実験し、ルール作りを進めて、「携帯電話等の使用に関する指針」をまとめ、現在のような使用禁止場所のルールが定まりました。(2002年)
トピックスNo.3の繰り返しになりますが、本来医療機器は無線受信機ではありませんから、携帯電話機が発射する電波に感応してはいけないのですが、旧型医療器の電子回路の不備や構造上の弱点から携帯電話の影響を避けられないものもあるという現状です。今まではお互いに影響があることを知らなかった、携帯電話が普及していなかった、電子機器が無防備という時代から、お互いに干渉問題があることを認識して、注意を促し、「相互に使用制約の不便をしのぐ」状態に移行しました。しかしこれからは、相互の影響を軽減する、さらには電磁干渉を受けないようにして、どこでも安心して携帯電話や医療機を使えるという共存のパラダイム(EMC=電磁環境両立性)が主流になりました。理想的な環境の実現にはまだまだ時日を要しますが、状況は確実に改善しつつあります。

【提言】

携帯電話機がユビキタス社会の重要な端末であり、固定電話機を凌駕する勢いで増加しています。このように利便性に富んだ端末をむやみに使用制限することは社会・経済性の見地からは時代に逆行する方向です。電磁両立性とマナー問題を混同することなく、秩序ある利用を進めたいものです。
非常にデリケートな電子医療機器および生命に関わる機器との電波干渉は、電磁環境両立性が普遍的になるまでTPOをふまえて携帯電話機の使用を控えることによって事故を防ぐことは大切です。一方、便利な携帯電話機をいつでも、どこでも使いたい状況も理解できます。入院患者が公衆電話まで行って通話するのに支障がある場合は一般的にどこでもあります。家族との会話やメールがどれほどの励みになるかは入院経験者でないとわからないでしょう。そこで、次の提言をします。

  1. 手術室、集中治療室(ICU)及び冠状動脈疾患監視病室(CCU)には携帯電話を持ち込まないこと。
  2. 検査室、診療室では電源を切る。
  3. 病室では原則禁止するも、人工呼吸器、テレメーターまたは輸液ポンプが稼働していないことを確認した上で管理者の監督の下に使用許可する。メールを勧める。マナーモードにする。呼び出し音、キー操作音を消し、音声を控えるのは常識。
  4. 娯楽室の一角、電波環境が良好な窓辺に携帯電話使用可能なエリアを設ける。マナーモードで使用する。
  5. 公衆の往来するエリア、受付、会計の待合室では使用許可。マナーモードにする。

2004年8月24日の報道では名古屋市交通局は市営地下鉄の地下ホームで携帯電話を使えなくするために、基地局のアンテナを調整して電波がホームに入ってこないように調整しています。万一の事態に備える方法が電波を遮断するというネガティブ思考の極端です。通過利用客は電源を切らないでしょうから、携帯電話機は最大電力を出して、基地局に自分の居場所を伝えようとします。名古屋の措置は逆効果でしょう。東京の地下鉄ではマナーに留意しながらホームでの携帯使用など積極支援です。病院内、講演会場、音楽ホール、学内、車内・駅構内などの私設の施設で携帯電話を使わないでいただきたいという方針は施設管理者の自由です。そのような場所で施設管理者の要望に沿う努力をすることはその施設を利用する者の責務です。携帯電話のところかまわずの使用は保証された権利ではありません。あなたのご家庭の中にペースメーカーをお使いの方がいらっしゃるときに、訪問者に携帯の電源を切ってくださるようにお願いすることはあり得るでしょう。
しかし電磁環境が改善しても、音楽会や講演会などの静寂環境の中で呼び出し音が鳴るとか、公衆の中で大声で通話するというのはマナー無視で、あなたの品格が疑われます。
当院でも医療電子機器メーカーと現用医療用電子機器の電磁環境両立性検証を進めながら携帯電話の使用緩和を検討します。一例ですが、テルモでは1998年よりIEC規格60601-2に準拠した規格による電磁環境両立性の機器試験をしているそうです。

ARIB

Association of Radio Industry Business 電波産業会

EMC

Electro-Magnetic Compatibility 電磁環境両立性

EMCC

Electro-Magnetic Compatibility Conference Japan 電波環境協議会

IEC

The International Electrotechnical Commission

参考

科学の回廊 「携帯電話による医療機器の誤作動」
(PHS0.8Wは誤記、0.08Wが正しい。携帯電話の十分の一ということ、著者了解、修正予定)

   

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